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アイカ現代建築セミナー

第51回 現代建築セミナー THE 51TH AICA SEMINAR IN CONTEMPORARY ARCHITECTURE

テーマ: 「建築の環境化は可能か」
講 師: 隈 研吾(建築家)
会 場: 2003年3月14日
(今池ガスホール)

はじめに

 建築家の講演はスライドが多いのですが僕はビデオも見せたいと考えています。いちばんいいのは実物を見てもらうことで、現代は実物のもつ価値が高まっている時代です。情報のスピードが早ければ早いほど視覚、聴覚、触覚等を含めて実物が伝える情報は多覚的に非常に豊富で、それをいかにして伝えるかが重要だと考えて最近はビデオで見せることが多いのです。今回のテーマ「建築の環境化は可能か」にも関係しますが、建築と環境の関係は、従来の調和や共生だけでなく、建築自身が総合的な環境になっているかどうかが大事です。建築的な総合性こそが現代に求められていることではないかと思います。建築が社会的に受けが悪い理由は、視覚的な面にこだわり建築の総合性をまともに追及してこなかったからではないでしょうか。その辺を含めて今日の話を聞いてください。

亀老山展望台

 愛媛県今治市の先の瀬戸内海の小島"大島"の山の中に埋もれた展望台です。設計依頼は町の象徴になるようなモニュメントとしての展望台でしたが、いろいろ考えた結果、溝のような建築をつくり、すでに水平にカットされていた山頂に土を入れ、植栽を施して山を元の姿に戻しました。町長は最初非常に驚いたようですが「溝の底のデッキで町民コンサートもできますよ、ギリシャの野外劇場のようでしょう」と説得しました。オブジェ、物体としての建築でなく、裂け目として存在し、建築と環境の境界がはっきりしない建築としました。環境に建築が付着しているというか、単なる調和・共生を超えた建築になったと思っています。建築が一切見えない写真がこの建築の特徴をいちばん伝えているし、僕も好きです。

北上運河資料館

 宮城県石巻市の北上川下流に建つ施設です。東北の川は自然護岸が残っているところが多く、川らしい環境です。そこにつくるために土手に半分埋もれた施設としました。実は別な設計者の土手の上の石のシャトーのような計画案をあるシンポジウムで見せられ、こんなものはつくるべきではないと発言した結果、別な案を考えてくれと依頼されたものです。川沿いの遊歩道から寄り道するように下に潜り、またいつのまにか遊歩道に戻るという、建築自身が道になっており、建築がモノとしてあるのでなく体験として存在しています。ガラスを介して川が眺められ、家具やガラスで内外が一体化していますが、ガラスの境界はこの場合あまり意味がなく、トンネルの連続性に意味があります。ランドスケープにとっては、建築以上に家具が決定的で重要な役割を果たすと感じています。

水/ガラス

 熱海の崖の上のブルーノ・タウトが日本に残した建築作品「日向邸」(1936年)の隣地に建つゲストハウスです。日向邸はタウトの自信作で、形をデザインするのでなく海と人の関係性をデザインするという、自分のやりたかったことをここで実現できた作品になっています。それはタウトが日本建築のすぐれた最大の特徴は関係性にあると、桂離宮で庭と建物と人の関係に涙した体験からくるものでした。水/ガラスはその隣地に建つため、タウトからいろいろ学びました。まず単にガラスの箱をつくるのでなく、水の平面をつくって床と屋根のふたつの水平面をつくり、関係性を創出しています。ビデオのほうがその辺をよく伝えられるので見てください(ビデオ上映)。建築では珍しく雨の日の映像です。海と空があいまいにつながって水蒸気のなかに浮かんで見えます。家具も大事な要素なのでていねいにつくりました。水深は15cmです。

森舞台 登米町伝統芸能伝承館

 これは床と建築のない合間のデザインがテーマです。伝統的な能舞台には舞台と見所の間に舞台を現実の世界から隔離する白洲がありますが、近代的な室内の能楽堂になると、これが1mぐらいの砂利敷きだけになってしまいます。森舞台では舞台と見所と白洲が主な要素で、白洲は暗い森に呼応させて黒砂利敷きとしました。町と舞台は厚い壁でなく間伐在の杉のルーバーで軽く仕切りました。

陽の楽家

 古い茅葺きの集落の残る新潟県高柳町のビジターセンター・住民交流の拠点です。現地を見たとき、茅葺きにアルミサッシュとガラスが入っているのを見て非常に残念に思いました。江戸時代までは紙だけで生活できていたわけで、和紙で壁をつくるのがテーマです。外壁は横なぐりの雨にびしょぬれになって普通の和紙では無理ですが、地元に和紙漉きの名人(小林康生)がいて、何度か打ち合わせている間にどうしてもかれの和紙でつくりたくなりました。柿渋とコンニャクを塗ると撥水すると教えられ、念のため庇も深くしています。実は太平洋戦争で日本はコンニャクを塗った和紙の風船爆弾を4万発飛ばし600発がアメリカ本土に届いているんです。ここでのもうひとつのテーマはランドスケープの連続性、水田に浮かぶ縁側のような建物です。周囲の水田の稲を建物ぎりぎりまで引き寄せ、1枚の和紙で自然と内部をつなぎました。

銀山温泉共同浴場「しろがね湯」

 山形県の深い谷間の川沿いに木造3~4階建ての温泉旅館が14軒並び、余地は一切ないという土地です。車1台分の駐車場跡地に町民の共同浴場を少ない予算でつくりました。悪条件を解決するのは設計の楽しみです。狭いから川や道と一体となり町と交信する建物にしたいと考え、2枚の格子をスライドさせてさまざまな開閉状態をつくりだす無双格子にしました。木とフロスト処理をした乳白色のアクリルで構成しています(ビデオ上映)。

高崎駐車場

 駅前に建つ1000台収容の駐車場です。高崎はレンガの町で駐車場らしくない、レンガ色の建物という要望つきのコンペでした。レンガは駐車場に使えるような材料ではないためプレキャストコンクリートに置き換えて考え、色を塗るのでなく発色するように骨材でいろいろ試し、レンガ色はうまくいかず、結局茶系に発色するPCとガラスルーバーの組み合わせに落ち着きました。ガラスルーバーの部分はエレベータや階段です。ここでも壁を壁とせず細かい粒子に砕いて風が抜けるようにしています。そのランダムさをどう表現するか、実はランダムさとは人の感じ方だから、あるリズムでグルーピングするなかでランダムにすることだと分かりました。

那須歴史探訪館

 旧奥州街道沿いの竹林に囲まれた敷地に建つため、それをどうするかがテーマでした。建物は黒子に徹しており、環境が主役で展示コーナーは低い軒とガラスで完全に庭と一体化しています。周辺に残る藁がはみ出た土壁の蔵を見て左官の久住章氏に相談し、天井や間仕切り用に、アルミのエキスパンドメタルに藁を糊で貼り付けた光が透ける半透明のパネルを考案しました。麦藁は黄色いので白い稲藁を使いました。

馬頭町広重美術館

 安東広重は江戸時代後期の浮世絵師で1858年に亡くなっています。西洋の印象派と重なる時代で、実際にも非常に透明な空間表現で大きな影響を与えています。例えば有名な江戸名所百景の「大橋安宅の夕立」のいくつにも重ねたレイヤー、線で縦に降る雨筋などによる奥行きの表現は、西洋絵画のパースペクティブな表現とは違っています。ゴッホは油絵の具でこれを模写しました。また自然と人工も対比でなくひとつに表現しています。そういう透明性を広重美術館で抽象化して表現したいと考え、まわりが自然の森に囲まれているため、屋根も壁もすべてを木のルーバーで覆うという計画になりました。ここでも町と裏山をつなぐ穴が建物の重要な空間として存在しています(ビデオ上映)。不燃化の処理をした3×6cmのスギ材のルーバーが12cmピッチで並びます。外から木のまま、次が和紙巻きの格子、そして和紙の壁といくつかのレイヤーを重ねています。屋根・天井も鉄のブレーシングを含めて4つのレイヤーの重なりでできています。壁はプラスチックで補強した和紙を採用しました。

GREAT BAMBOO WALL他

 透けて、やわらかく風を通して気持ちいい素材として竹を一度使いたいと思っていました。南米の竹は使えるが、日本の竹は乾燥に弱く割れるため構造体に使えない。というので竹の節を抜いて鉄骨とコンクリートを入れ込んだ竹のCFT柱をつくり、ガラスの壁を重ねて建築をつくるというスタディをして、鎌倉に床も竹の家をつくりました。 そもそも竹は中国伝来ですから、この技術を中国でやってみたいと思い、北京郊外の万里の長城脇に建築家がいくつか住宅をつくるプロジェクトで発展させてみました。傾斜地にあり、その起伏を生かしてつくりました。竹にもいろいろなノウハウがあり、緑の竹を290℃ぐらいに熱して殺菌しますが、気候の乾燥度が異なるため、日本と中国では長持ちのさせ方が異なり、日本では湿気が竹をもたせますが、中国では高温の油に浸す方法を採ります。床は本当は紫禁城に使われている真っ黒い油を染み込ませた瓦を使いたかったのですが、いまはその技術がなくなっており、黒い地元産のスレートにしました。

版築ブロックのお堂

 未発表の版築ブロックでつくった作品です。版築とは土を固めて建物をつくる技術で、山口県豊浦町にある版築ブロックの土塀を見て発想しました。普通はコンクリートのようにべたっとしますが、土壁でも軽くしたいと考えて版築をブロックにして隙間をあけて壁を構成することで風や光を通しています。

PLASTIC・HOUSE

 プラスチックは自然素材ではないと白眼視されてきましたが、自然か人工かで峻別する根拠はあまりない。プラスチックは太古の生物が元の石油が原料で人工ともいいきれない。大事なことは素材と人間がどのような関係を結べるかにあるはず。特に東京の都心の住まいの場合、内外が一体となったやわらかい環境をつくり出す素材としてプラスチックの家をつくりたいと考えていたところにクライアントが現れて実現した作品です。光が透けるので、朝早く目が覚めるらしいです。4mmのFRPの平板とさまざまな形状の引き抜き材のパイプを組み合わせて天井・床・壁を構成しています。階段もFRPのグレーチングで、犬は上り下りが苦手のようです(ビデオ上映)。全体に光を通すため、ビスも出来る限り透明なプラスチックとし、アルミの押縁もつけずにビスとコーキングとプチルゴムで透明感を壊さないよう配慮しました。

大阪臨海部のイベントスペース

 鉄とビニールカーテンで構成した5年間だけ使う子供用のイベントスペースです。コンクリートの重さを軽くするコルビュジエのドミノを意識し、鉄骨でもっと軽くする試みです。構造はオーク構造設計の新谷眞人さんですが、薄い鉄で床をつくりたいので鉄板でなく70mmの鉄のハニカムを100mmのスチールパイプでつないでいます。ガラスより自由な壁にしたいので倉庫などによく使われる、どこでもくぐれるビニルカーテンにしました。エキスパンドメタルの壁を3重にして半透明の構造壁をつくり出しています。
 作品紹介は以上です。さまざまな素材を使って建築をつくっていますが、基本的な僕の考えは、その場所ごとに考えるということです。いつも同じ素材という建築家もいますが、僕はそれでは退屈してしまいます。やはり、その場所ごとの人の出会いからくるローカリティが大事だし、世の中に建築が存在する限り、そこを一番大切にしたいと思っています。本日はどうもありがとうございました(拍手)。

質疑応答

質問1
形態やヴォイドのお話を興味深くお聞きしました。乳白色とか緑色について触れられましたが、色彩についてのお考えをお聞かせください。


 建築における色は絶対的というより相対的なもので、環境や人の感じ方で違ってきます。つまり予測不可能さが色の面白いところです。これからもっといろいろやってみたいと思っています。PLASTIC・HOUSEでも白とは思いませんでしたが、あんなウスバカゲロウのようなきれいな緑とは予想していなかったんです。そこで、それ以外の塗装部分はできるだけ白にして、その緑を生かしました。

質問2
住宅を設計されるときのキーワードはなんですか。


 僕自身の住まいの考え方はワンルームです。プランニング上で山本理顕たちがいう反nLDK的な並べ替えとも違います。とにかく、なるべく大きいワンルーム、そして大きな床をつくり、やわらかい壁をつくりたいというのが基本です。

質問3
愛知万博の建築について少しお聞かせください。


 愛知万博は最初の頃だけで、いまはタッチしてないのであまりくわしく知りません。最初の構想でいえば、森に分け入るようなものが望ましいと考えていたのですが、森から撤退したので、安全にはなりましたが残念です。森に入ると森を破壊するといわれますが、本当に森と人が一体になれる提案、もっと小さなものが点在するような万博ができたらいいと思っていました。しかし数百万人がくる施設としては無理なんでしょうね。コンピュータだって小さくなって、以前より大きな処理をしているのに本当に残念です。

質問4
内外の境界をあいまいにしてという提案は、地方ならばいいかもしれませんが、PLASTIC・HOUSEでも少し閉じている。東京の都心などではどうなのでしょうか。


 都市でも木造の家などでは、少し前まではツーツーだったはずです。僕自身はそういう環境で育っているので全然気にしません。逆に密閉されて音が聞こえないほうが気持ち悪くなります。PLASTIC・HOUSEでは朝の光が入ることぐらいで、騒音はプラスチックが2重で断熱材が入っていて、全然気にならないようです。

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