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アイカ現代建築セミナー

第58回 現代建築セミナー THE 58TH AICA SEMINAR IN CONTEMPORARY ARCHITECTURE

テーマ: 「環境と建築」
講 師: 妹島和世 (≫講師プロフィール
日 時: 2012年7月13日
会 場: 東京

はじめに

 今日は、「環境と建築」についてお話させていただきます。環境といっても様々な点から考えられますが、今、私がテーマとしているのは、空間の問題として試みることで、特に環境をどのように捉えることができるかが、基本設計の中で試行錯誤していることです。昔からコンテクストという言葉で語られたことにも近いと思いますが、視覚的なことだけでなくて、それぞれの場所が持っている重さや密度、あるいは素材や大きさ等をプロジェクトごとに捉え、そこに建物を建てるときに建築がうまく着地できるようなものをつくりたいと思っています。

「ROLEX ラーニング センター」2009 ローザンヌ、スイス (SANAA)

コンペでの提案
 スイス連邦工科大学ローザンヌ校はもともとローザンヌ市内にあったのですが、郊外に移り1970年代から年代ごとに建物が建ち続けている巨大なキャンパスです。
 既存のキャンパス前面に、学生たちが一ヵ所に集まり、新しい教育、新しい考えを生むことにつながるような場所をつくりたいということからコンペがありました。
 ここでまず求められたことは、敷地の隣にあるローザンヌ大学、レマン湖、近くにある住宅から人が集まる場所にしたいということでした。高層の案などいろいろ試みましたが、みんなが出会える場所ということで、低層の水平的な広がりをもつ方がふさわしいと思いました。
いろいろな年代につくられた既存キャンパスを1層の大きな建築がふさいでしまわないように一部を持ち上げ、隆起したシェルをくぐり、建物が建った後もスムーズに既存キャンパスにアプローチができるように考えました。

ワンルームの内部空間
 4方向に隆起している場所があるので、いろんな方向から来た人が、皆自然に建物の真ん中までアプローチしてきて、キャンパスを見ながらこの建物の入口に出会う。すぐ上が開いているので内部の人たちも見える。中に入ると大きなワンルームが広がっています。
 ワンルームということも私にとってテーマになっています。必ずしも一部屋をワンルームというのではなく、いろいろなことが起こる可能性を持つスペースをイメージしています。
 ここでは丘が2つあって、それによって3つの場所ができて、さらに中庭を設けることによって場所と場所の間に様々な距離が持ち込まれます。つまり、大きな中庭ができれば反対側は遠くなりますし、小さければその逆です。一層の建物が断面的に上がったり下がったりしており、ほとんどの中庭が着地しているところはそのまま大学だったり町につながっています。つまり通常の中庭は外部空間ですが、ある意味閉じられ、片側が空中に浮いているので外からは遠い場所にもなっていますが、ここでは囲んでもいてもそのまま建物の外側に広がる環境につながっていく場所になっている、そういう中庭がここではテーマになっています。

構造と設備
 いろいろなエンジニアの人たちとのコラボレーションで、形態、平面が決まっていきました。最初は構造が大変だったわけです。これは佐々木睦朗さんが作られたプログラムで、コンピューターが自動的に出す答えと佐々木さんの経験と勘で会話しながら進めていきました。
 建築として成立するために構造的に成立することと、建築の使用上で成立することの関係から決めていきました。
 次に、ここではコンピューターで窓やトップライトの開閉をコントロールしながら、湖から冷たい空気を入れて自然換気を行っていますが、その量、さらに風がゆっくりながれるように中庭も大きさや位置が検討されました。  一番難しかったのが音で、ワンルームでありながら賑やかな場所と静かな場所を作るわけで、上下する床と天井、中庭の位置の調整で異なる音環境の場所をつくっていきました。
 このようなプロセスを経て、いろいろなエンジニアの人のシミュレーションをもとにして、最終的にはフリーハンドで描いていたような形態が現実的なものになっていきました。

谷、丘、尾根のある地形的空間
 中に入ると、メインエントランスのまわりに学食とカフェと銀行の出先機関やブックショップ、学生のためのエリアがあり、丘を上がって稜線を歩くと奥がライブラリー、逆に湖側に歩くとレストランがあります。また、それぞれの中庭は、食堂へ、可動の扉のついたイベントの場へ、またオフィスに直接行くというようにバラバラのエントランスとしても使われ、でも中を動くと全部つながっているという具合です。
 向こうに既存のキャンパスが見えますが、歩いて行くと同時に建物の中にいるようでもあり、キャンパスの一部に繋がっているような、キャンパスと建物が一緒にあることの経験をします。

「芝浦のオフィス」2011 東京 (妹島和世建築設計事務所)

 田町駅の近くにあるオフィスビルで、5階建ての鉄骨造のビルですが、10階分くらいの高さがあります。
 クライアントの方が考えられたのは、自社ビルなので全体がつながったようなオフィスビルにしたい、そして、近所の子どもたちやオフィス街のサラリーマンの方も寄れるような地域と繋がっていく場所にしたいということでした。
 1階がパブリックな場所で、お弁当を食べたり、時々ワークショップも開かれます。5階は多目的スペースになっています。2階と3階、3階と4階はそれぞれ2層分のテラスがあってつながり、5階にもテラスがあります。
 外部空間が5階分をつないで、全体としてつながりのあるオフィスビルをつくろうとしました。どこの階にいても上下の階が見えて、エレベーターを使わないで上下移動するときは、テラスの階段を使ってもらう。南側のテラスはちょうど庇のある空間にもなっています。
 私としては、どこにいても街のいろんなレベルの景色の中で働いていることを感じることができるものを作ろうと考えました。

「土橋邸」2011 東京 (妹島和世建築設計事務所)

 都心にある小さな住宅です。立体的に空間を重ねながらワンルーム空間をつくろうとしています。柱もサッシのようなメンバーとブレースで組み上げて、階高も1.9mくらいしかないのですが、吹抜けで四角く抜き、ある程度全部つながっているけれど各フロアが独立もしているようなスペースを作ろうとしています。
 メインの場所は吹抜けの下にあるので、上から斜めに見下ろすと一番下のリビングまで見えます。実際は高さがありますが、全部に手が届くような感じで、からだのまわりに広がっていくようなものをつくりました。建物の高さは周囲の住宅に合わせるように考えました。

「みんなの家」2012 宮城 (SANAA)

 宮城県東松島市の宮戸(みやと)島で、震災後に伊東豊雄さん、山本理顕さん、内藤廣さん、隈研吾さんとで始めた「みんなの家」プロジェクトの1つをつくろうとしています。
 とてもきれいな島で、4つのメインの浜があります。
 そのなかで28軒ほどの仮設住宅があるところに「みんなの家」をつくりはじめたところです。
 仮設住宅には30軒より小さいところには集会室がありません。例えば、友達が訪ねて来ても話をする場所がないから、こういう施設があると気楽に話したり、みんなでこれからのことを考えたりできるのではないか、というのがはじめたきっかけです。
 「みんなの家」は、だいたい1軒30平方メートルと決めていて、大勢の人に協力をお願いしています。これで4つ目ですが、今のところあと4~5軒の計画が進んでいます。

「小平市立仲町公民館・図書館」東京 (妹島和世建築設計事務所)

 小平市の図書館の分館と公民館の分館を合体する計画です。それぞれが古くなっていたことと、合理化するために2つを一緒にするプロポーザルがありました。敷地は青梅街道沿いで交通量の割に、緑の多い静かな住宅街です。
 私が提案したのは、ひとつは図書館と公民館にある諸室を少しオーバーラップして使えるようにということ。もうひとつは、3階建ての建物になるのですが、それが立ちはだかるのではなくて、なるべく地面と接触できるようなものにしようとしました。
 1階は、エントランスとオフィスがある棟から離して、もとの公民館にあった調理室や陶芸室は庭に出しました。地下に降りていくと、ダンスなど音の出せるホールがあります。庭にちらばっていたものがだんだん2階になるとつながって、3階になるとより大きな1つのスペースになる。2階の図書館の中も子ども用、青少年用、3階の大人用で部屋の天井高がそれぞれ違ってできあがるように考えています。そうすることによって、周囲に建っている住宅のスケールや緑と混じり合った建ち方を実現しようとしています。
 全体としてはひとつのかたまりですが、まわりの環境と混じり合ったようなかたまりが作れないかと考えました。

「京都の集合住宅」2013年完成予定 京都 (妹島和世建築設計事務所)

 現場がはじまったばかりの京都の集合住宅です。70平方メートルくらいの賃貸住宅が10軒入っている建物です。京都の条例で切妻か寄せ棟で屋根の角度が何度から何度と決まっていました。敷地が大きくてまわりの建物に対して非常に大きくなるので、役所の方と話し合いながら、大きな寄せ棟をバラバラの複数棟で形をつくっていくということを試みました。
 鉄骨の柱梁と木造の母屋で作ります。1軒の家はだいたい3つの屋根の下に入っています。そのうち2つは他の家と共有しています。間が庭になっていたり屋根付きのテラスだったり、細い通路だったりして通り抜けができるようになっています。
低い屋根と高い屋根の間から光が入り、場合によっては1つの部屋が2つの屋根からつくられていたりします。

「グレイスファーム」ニューケイナン、アメリカ (SANAA)

 ニューヨークから1時間のところに計画しているコミュニティのための計画です。競争馬の練習場所跡地をクライアントである財団が購入しました。
 昔は、地域の人が教会に集まりコミュニティ活動をしてきましたが、今では教会がそういう役目を果たさなくなり、自分たちが現代版のコミュニティとなる教会のようなものをつくりたいというのがクライアントの要望でした。
 日曜日の午前中には教会になり、他の日には様々に使われます。ダイニング、ライブラリー、そしてクラスルームは子どもと大人が平日も勉強ができる場所になっています。
 敷地の高低差に沿って屋根が走り、既存の木から近づいたり離れたりして諸室が配置されます。屋外には小道が広い敷地を一周し、野球場、サッカー場、屋外シアターが散りばめられます。
 構造に木の集成材とスチールを使い、ゆるやかな曲面がランドスケープと繋がっていくようなものをつくろうとしています。

「スコルコボ」モスクワ、ロシア (SANAA)

 モスクワから車で20分くらいの郊外に新しい町をつくる計画があり、その駅前広場の計画を私たちが担当しています。
 大学、テクノパーク、住宅などの施設が建ち、それを電気自動車がつないでいく。実際にどうなるかはいろいろな動きがあるので分からないのですが、既存の木々が繁り水の流れているところを3/4球のような形で軽く囲んで、アートセンターやチケットセンターと自然がいっしょになった半屋外空間の駅前広場を作ろうとしています。
 駅前空間なのでシンボル的なものでありたいという要望に対して、気候をビジュアル化する。つまりドームの高さが百数十メートルあり温度差があるので、熱い空気は上に抜いて、暑いときには雲をつくります。モスクワの冬は-30℃近くなるのですが、球面を有効に使い、冬でも3~5℃くらいになるスペースを自然エネルギーで作ろうとしています。気候というものがそのまま見えてくるのがシンボルになるということを考えています。

犬島「家プロジェクト」2010 岡山 (妹島和世建築設計事務所)

 これは瀬戸内海の犬島の「家プロジェクト」です。
福武總一郎さんがアートで人々を元気にし、瀬戸内海の人口減少が続く島をもう一度再生しようと考えられ、安藤忠雄さんと約25年前に直島で美術館をつくることからはじめられました。20年ほどが経過し直島がうまくいって、ある程度安定してきたのでそれを少し瀬戸内海に広げ始められました。その延長上にこの犬島プロジェクトはあります。
 犬島は小さな島で、三分一博志さんの犬島アートプロジェクト「精錬所」があります。私は、ここにある集落を使って何かできないかということで4,5年前からやらせていただいています。集落といっても、建築が少し大きくなったくらいの規模です。
 昔は3,000人くらいの集落でしたが、今は平均年齢70代後半の5040人前後が暮らしています。空き家になって放置されている場所を貸してもらい、ギャラリーにリノベーションし集落を美術館にできないだろうかという考えでスタートしました。
 10軒ほどを借り、その中を時間をかけながら、使えるものはなるべく使い、使えないものは新しい構造を持ち込んで混ぜ合わせリノベーションだったり新しいものをつくったりしていきます。ここの島の特徴は、民家が高低差のある土地のその場その場に建っていて、少し歩くと風景が変わるのです。そういう中に違うものを注意深く入れ込みながら建物だけでなくまわりも考えながらつくっていこうと考えました。島自体がほんとうに魅力的なところなので、アートを見に来たのか島を見学にきたのかどちらともわからない経験をできるようなものを作りたいと思っています。
 犬島に船で着き、階段を上っていくと石の神様を祀った神社の麓に来ます。ここがひとつ目の場所です。状態がよかったのでリノベーションを考えました。リサイクルと言った方がふさわしいかもしれません。ここから神社に上がっていくのですが、その小さい広場は展示場所だったり、パフォーマンスの場所にもなったりします。
展示室は、もともとあった壁を全部取って、2つのコートヤードを付け足して耐震性をもたせました。普通は壁がないとギャラリーとして成り立たないのですが、ここでは、島の風景と人の暮らしとアートが一体的に経験できる場所をつくろうとしています。全体を長谷川祐子さんがアートディレクションをしていて3年に1回展示が変わっていきます。
 構造材と屋根は古い物を使い、外壁は新しくして中を開け放し、古かった梁と新しい材料の色をできるだけ揃えて全体をなるだけ近いテイストにして新しいのか古いのか分からないようなものをつくろうとしています。
 次のギャラリーはアルミのハニカムでつくろうとしています。まわりの風景が写っている中に入っていくと中もアルミなのでまわりの風景が入り込んできて、それとアートを一緒に見るような場所をつくろうとしています。真っ直ぐのギャラリーをつくろうとして模型でスタディしていて気付いたのが、犬島の道は細く車も通らないので、全ての建物は小さな部材でつくられているということです。だからまっすぐの線や長いカーブは犬島ではありえない線なのです。
 その先に行くと石に挟まれた場所があり、ここで一期工事の時に作ったのは、アクリルで作られたスペースです。ここでも常に展示物と風景と人が一緒に見えています。もともと道に沿ったゆるいカーブ状の形態を考えていましたが、構造で厚さが8センチメートルになってすごく重くなり、船でもってくると半分の長さに切らなくてはいけない。もうすこし強いカーブにすると厚みが減らせるということからこのような形が出てきました。もう一つセットで今、作っているのがリング状のものです。アートが展示されたときに畑と家が一緒に見えてくる場所をつくろうとしています。
 上の一番高いところにアルミ屋根の休憩所があります。工場で作ったものを持ち上げて上で組んでいます。高いところなので、集落全体が見える場所ですが座るとカーブする地面だけが見える場所にしようとしました。

「ルーヴル・ランス」2012開館予定ランス、フランス (SANAA)

 フランスはパリに文化施設が集中しすぎているので、それを地方に分散する政策をとっています。この美術館はパリから北へ1時間離れた炭鉱の町に建設中の美術館です。今年の年末に開館予定で、今は大詰めを迎えています。
 全体像がわかりにくいパリのルーヴル美術館に対し、ここでは年代順にコレクションを配置し、時間との関係を感じることのできる美術館をつくろうとしています。
 外観の長方形を、少しカーブして配置しています。三角形の敷地に、四角く建てると所々に半端な場所ができてしまうのと、昔の引き込み線路の跡や掘った穴にぶつからないよう、長方形を微妙に曲げて配置し、きれいな風景の中に溶け込んでいくものをつくろうとしました。
 1階エントランスホールへは四方から入場します。常設展示室とテンポラリーギャラリーを左右に配置し、ガラスの美術館、子どもたちのアトリエ、劇場、レストラン、オフィスがあり、地下は大きな収蔵庫です。
 常設展示室は時間のギャラリーです。ここで展示されるものの時間の先に自分たちの生活する現代があるということを、経験として実感してもらうため、ルーヴルは自然光を入れるということにこだわりました。美術館には光をあててはいけないものもあるので、外ルーバーと内ルーバーで、全体が薄暗いところと明るいところをつくろうとしています。
 中を歩いて行くと壁に表示されている年代で、自分が見ている時代がわかるようになっています。ここを通り過ぎるとガラスのギャラリーに着き、19世紀後半に炭鉱で発展した、この町の歴史や現代の町がわかるものにつながりエントランスに戻って来ます。
 反対側はテンポラリーギャラリーで、3ヵ月ごとにテーマが変わっていきます。外壁をアルミ鏡面で仕上げ、風景の中に溶け込んでいくものをつくろうとしています。
 エントランスの部屋はガラスで、天井は骨組みを見せています。時間のギャラリーは、アートと観客が一緒に経験できるようなものにしようとしてやはり仕上材にアルミ鏡面を使っています。外観は敷地の高低差に合わせて屋根は片流れになっています。少しカーブしていることと合わせて。四角感がなく地面に広がっていて、できあがってくると風景とより一体的なものになると思っています。

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